理事長挨拶

 

  日本臨床検査同学院

  理事長 宮地 勇人

公益社団法人 日本臨床検査同学院の理事長として、一言ご挨拶を申し上げます。

 

 日本臨床検査同学院(以下、同学院)は、臨床検査技師の知識や技術の向上のため、卒後教育の一部としての資格認定試験を主な事業としている団体です。同学院は2014年4月1日、内閣府より公益認定を受け、公益社団法人となりました。さらに、2020年2月17日、遺伝子分析科学認定士とPOCT測定認定士の2つの資格認定試験について新たに公益認定を受けました。これを機に同学院は公益事業を実施する団体として、社会的な認知度と信頼性が高まると同時に、社会的な責任も一層重くなりました。同学院の設立の趣旨である「臨床検査学の学術と技術によって、広く病める人のために尽くす組織」の原点に立ち、同学院の事業継続とともに、同学院が益々発展するよう努力する所存です。

 

 近年、先進的検査を始めとした検体検査の精度確保が安全で良質な医療の遂行に不可欠との認識のもと、国の有識者会議等において、体制・整備に関して議論が活発化しています。これを踏まえて、検体検査の品質・精度の確保に係る医療法等の改正(改正法)とともに、具体的な基準について厚生労働省令改正(改正省令)による施行規則が、2018年12月1日に施行されました。そこでは、検体検査の精度の確保に係る責任者の配置や適切な研修の実施の基準が示されています。このため、専門的な知識と技術を評価する資格認定試験の役割は一層重要となります。

 改正法の施行を契機として、POCT測定認定士と遺伝子分析科学認定士の2つの資格認定試験について、公益事業の追加認定を内閣府に申請しました。内閣府公益認定等委員会での厳正な審査のもと、公益事業の変更が2020年2月に認められました。

 公益事業の追加認定の申請の背景となった改正法では、医療機関自ら実施する検体検査の精度の確保の対象として、検査室(部門)のみならず患者診療の現場で行われるPOCT測定実施が含まれることとなりました。また、改正省令では、遺伝子関連・染色体検査が法律上はじめて一次分類に設置され、その規制と基準が定められました。この2つの分野は発展・普及が著しく、係る試験事業は、専門的人材の育成を通して良質な医療の提供に貢献する点で、公益性が高いと考えられます。遺伝子関連・染色体検査では、特に高度技術の進歩に呼応した精度の確保と標準化が求められ、遺伝子分析科学認定士の資格の重要性は更に増すものと考えられます。

 この2つの分野は、臨床検査技師のみならず、検査実施する他の職種も受験資格対象としています。これは、検査実施の現状を反映し、社会の要請に基づく発展的な事業展開です。特定の職種に限定せず、検査実施する全ての職種を対象とすることで、公平な試験受験の機会を提供する点、良質な検査サービスに基づく医療を享受する国民の健康に貢献する点で、試験事業の公益性はより高まったと考えられます。

 

 さて、衛生検査技師(現臨床検査技師)国家試験は1959年に開始されましたが、現在、同学院が実施している臨床検査士の二級臨床検査士資格認定試験は国家試験の設置より前の1954年に、また一級臨床検査士資格認定試験は1956年に始まりました。これら資格認定試験は、当時玉石混淆であった臨床検査技師の学識と技術能力を一定の水準にすることを目的としていました。当初この試験は日本臨床病理学会(現日本臨床検査医学会)が行っていましたが、アカデミズムを追求すべき学会が臨床検査技師の資格認定試験をすることの是非、事業(資格認定試験)収入に対する税金問題、試験実施に伴う煩雑な業務などの理由から、学会とは別に資格認定試験実施に特化した機関を設けることになりました。その結果、1975年10月、当時の臨床検査分野で指導的立場にあった緒方富雄先生・小酒井望先生らが中心となって現在の同学院が設立されました。今年同学院は創立49年目を迎えます。現在、資格認定試験を実施するとともに、各種の講演会や講習会、教科書・テキスト類の出版などを行っています。現在、同学院関係の資格認定試験合格者は、一級臨床検査士261名、二級臨床検査士40,961名、緊急臨床検査士8,841名、一級遺伝子分析科学認定士39名、遺伝子分析科学認定士(初級)1,923名、POCT測定認定士347名です。

 また、臨床検査技師に対する顕彰事業も同学院の大きな事業の一つです。1985年に始まった「緒方富雄賞」は、臨床検査分野で学識経験に富み、検査技術を通じて医療の発展に著しく貢献した臨床検査技師を表彰するもので、現在までに107名が受賞しています。

 

 以上のように、同学院は一貫して臨床検査技師の学識や技術の向上に力を注いで来ました。また同学院の役割は、創立当初から緒方富雄先生の理念である「臨床検査技師の学識・技能の向上と臨床検査技術の発展」を忠実に発展させることであり、実技試験に重点を置いた試験を実施しています。これに並行して、資格認定試験の標準化、機関誌「通信」の充実や技師理事の増員など事業の質的向上を図って来ました。その結果、受験者の数は増加傾向にありますが、いくつかの課題もあります。例えば、事業規模に比べて少ない正会員数、更新制度のない試験科目、類似の資格認定制度との棲み分け、受験者増加に対応した試験会場や試験実行委員の確保、などが挙げられます。さらに新型コロナウイルス感染症パンデミックを経験し、安全・安心な試験実施環境の恒常的な確保が必要となっています。現在、これらの課題の解決に向けて、役員一同鋭意努力しています。

 同学院の真の公益性の証は、合格者が専門的な知識と技術に裏付けされた日常の検査実施に従事し、それを通して良質な患者診療や国民の健康増進に寄与することです。同学院の設立趣旨に基づく公益事業の継続、充実・発展には、関係学会・団体や会員のご協力、ご指導が不可欠です。これからも、是非ともご支援の程お願いする次第です。 

2024年
新渡戸文化短期大学 臨床検査学科 教授






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